独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「……ど、どうして?」
「学会の帰りだ」
偶然の出会いに動揺する私とは対照的に、彼の声は冷静だった。
鋭い目つきで加藤君をちらっと見ると、私に視線を戻す。
「顔が赤いな。酒を飲んだのか?」
「……少しだけです」
本当はビールを二杯とカクテルを三杯飲んだ。お酒を飲み慣れていない私にとって、この量はちっとも『少しだけ』ではない。でもひとりで歩けないほど酔ったと知られて、親に告げ口されては後々面倒なことになってしまう。だから咄嗟に嘘を言ってしまった。
酔っていないことを証明するために、慌てて加藤君から離れた。しかし、グワリと目が回って体がふらついてしまった。
「キミ。わざと酔わせたんじゃないだろうな?」
バランスを崩した私の腰に、樹先生の腕が回る。
「いえ! 違います」
樹先生が冷ややかな視線で加藤君を見つめた。
親切にしてくれた加藤君に、変なことを言わないでほしい……。
「加藤君はどこかで……休もうか、って……心配してくれたんれすよ!」
嫌な思いをさせてしまったのではないかと懸念しながら、必死に訴えた。けれどうまく呂律が回らないし、足に力が入らない。
「どこかで、ね……」
「……」
含みを持たせた言葉を聞き、加藤君が黙ったままうつむいた。