独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
樹先生のおかげで元気が出たものの、西野さんと会いたくないという思いを拭い去ることができない。
嫌だな……。
顔をこわばらせながら駅の改札を通り抜けて薬局に向かっていると、コンビニから出てきた加藤君と鉢合わせた。
「おはよ」
「おはよう。昨日はありがとう」
加藤君のすばやいフォローのおかげで、大変なことにならずに済んだ。
「もう大丈夫みたいだな」
「うん。迷惑かけてごめんね」
話しながら通りを進んでいると、加藤君の顔が曇り出した。
「あのさ……。昨日、俺が言ったことは忘れて」
「昨日?」
「あ、覚えてないならいいから」
加藤君に助けてもらったことは記憶がある。でも昨日は意識が朦朧としていたため、どんな話をしたのかは思い出せない。
「……うん。ごめんね」
「いや。……桐島先生と結婚するんだってな」
ふたりで飲みに行き、樹先生と偶然出会った翌日に『桐島先生と付き合っているの?』と聞かれたことが頭に浮かんだ。あのときはまだプロポーズされておらず、『ううん』と返事をした。
「あの後、いろいろあって……。隠していたわけじゃないんだけど……。ごめんなさい」
まだ日取りも決まっていないため、結婚することは上司にも報告していない。でも同期の加藤君には、伝えてもよかったのではないかと思った。
言いそびれてしまったことが、なんとなく後ろめたい。