独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
「別に責めてないし。ただ、相手が桐島先生じゃ敵わないなって思っただけ」
「……?」
浮かない表情のまま『敵わない』と言われても、意味がわからない。
普段とは少し様子が違うことを気にしていると、彼の足が不意に止まった。
「結婚おめでとう」
さっきと打って変わった笑顔は、いつもの明るい加藤君で安心できる。
「ありがとう」
同期がいい人で本当によかった……。
祝福をうれしく思いながら、再び足を進めた。
「……おはようございます」
なるべく目立たないように、小さな声で挨拶して更衣室に入った。しかし西野さんの姿は見あたらない。
まだ出社していないのか、それともすでに着替えを済ませたのかわからないけれど、取りあえず助かった……。
ホッとしつつ白衣を羽織ると、そそくさと更衣室を出た。
薬局の開店時間は午前九時。その十分前に朝礼が始まる。
「西野さんは体調不良のため、休みです」
連絡事項の伝達の後につけ加えられた局長の報告を聞き、息を呑んだ。
私だけじゃなく、西野さんも顔を合わせるのを気まずく思って休んだのかもしれない……。
「それでは今日も一日、よろしくお願いします」
朝礼を閉める言葉を聞き、ハッと我に返った。
今は西野さんのことを考えている場合じゃない。仕事に集中しなくちゃ……。
気持ちを切り替えると、始業の準備に取りかかった。