同期のあいつ
「一華ちゃん、誤解しないで欲しい。俺も鷹文も悠里も、同じ地獄を経験したんだ。どんなに頑張ってもその過去は消えないし、俺たちの関係は特別なんだよ」
どうか理解して欲しいと、頭を下げられた。

もちろん私だって、頭ではわかっている。
でも、気持ちがついていかないだけ。

「それに、悠里は本郷商事の娘だから情報を持っているのかもしれないし。鷹文はそれもあって悠里に会いに行ったんだと思うよ」

えええ?
本郷商事って、うちの同業者。歴史も経営規模も拮抗していて、業界の2トップなんて言われている会社。
悠里さんって人は、そこのお嬢さんで、鷹文の元カノ。

じゃあ、今回のことは、
「私のせいですか?」
無意識に口を出た。

「違うよ」
白川さんははっきりと答えてくれた。

でも、関係なくはないと思う。

「今回の件、鷹文には関わりがあるんですよね?」
「・・・」

白川さんは何か知っていて、隠している。
私に話せない何かがあるんだ。

「やっぱり、私が原因ですよね」
もう一度聞いて見た。

「だから、それは違う。確かに、鷹文のことを疎ましく思う人間も、側に置きたいと思う人間もいる。そういう人の利害が微妙に絡み合っているだ」
そう言うと、とても辛そうにグラスを傾けた。

「私がいなくなれば、彼は苦しまなくなりますか?」

「さあ、どうだろう。試しに僕と付き合ってみる?」

えっ。

「お見合いの返事も保留のままだしね、まだ間に合うよ」
「白川さん。冗談は」
やめてくださいと言おうとした私は、近づいてきた白川さんの顔に驚いて言葉が止った。

「僕は本気。冗談抜きで、僕とのことを考えて。今日はそれを言いたくてここに来たんだ」

.息の掛かりそうな距離で言われたのに、私は目をそらすこともできなかった。.

でも、
「私は、」
「わかってる。鷹文が好きなんだよね。それを承知で言っています」
「なんで」
「鷹文とあなたでは失うものが多すぎる。僕なら、あなたを幸せにするよ」

極上の笑顔を向けられて、私は何も答えられなかった。
ただ、目の前のアルコールを流し込んだ。
< 146 / 248 >

この作品をシェア

pagetop