同期のあいつ
「お帰りなさい鷹文さん」
「帰りました、お母さん」

駆けよるわけでも、抱きつくわけでもなく、どことなくよそよそしいのが俺の母親。
根っからのお嬢様だ。

「元気そうですね」
「はい」

最後に会ったとき、俺はボロボロだったから。

「心配したんですよ」
そっと手を重ねられ、目から涙が流れるのが見えた。

「すみません」

母さんだって母親なんだ。
一人息子がおかしくなって、心配しないわけがないんだよな。

「帰ってきてくれて、よかった」
ハンカチで目元を押さえ肩をふるわせる。

「心配を掛けてすみませんでした」

俺の方から近寄り、そっと抱きしめた。

「鷹文さん」
困ったように俺を見る母さん。

子供の頃、母さんは俺が嫌いなんだと思っていた。でも、違ったんだな。

「大きくなったのね」
随分と場違いなことを言われ、照れてしまった。

「お母さんは、小さくなりましたね」
「もう、鷹文さん」

ククク。

母親に言う台詞じゃないが、かわいいな。

俺の両親は結婚が早くて二人ともまだ40代。
小柄な母さんは俺と姉弟でも通るだろう。

「坊ちゃん」
また爺の声がした。

どうやら親父の所へ行けと言いたいらしい。

「お母さん。父さんは?」
「書斎ですよ」

はあー。
仕方ない、行くか。
< 173 / 248 >

この作品をシェア

pagetop