同期のあいつ
「本当に戻ってこられたんですね」

2階に上がったホールスペースで、守口さんは口を開いた。

「もう戻らないと思っていましたか?」

「ええ」
遠慮もなく言われ、ムッとした。

昔から、この人は俺に遠慮をしない。
親父の前では基本無視されるし、2人になればズケズケものを言う。
子供の頃から、苦手な人だ。

「何で俺につくことに同意したんですか?」

守口さんが反対すれば、親父も無理強いはしなかっただろう。
そのくらい彼のことを信頼している。

「何を勘違いしているんですか?僕の方から立候補したんですよ」

「えっ」
驚きすぎて言葉に詰まった。

「そんなに意外ですか?」
「ええ」

親父の第一秘書として大きな権力を手にしておきながら、今なぜ俺につくのか、メリットなんてないように思えるが。

「足を引っ張ってもらっては困るんです」
「はあ?」

それはどういう意味だと聞きたくて、声にならなかった。
きっと深い意味なんてないんだ。
そのまま、言葉の通り、『親父の足を引っ張らないでくれ』とボンクラ息子に言いたいんだろう。

「そんなに心配なら、俺を呼び戻すことに反対してくれれば良かったのに」

そうすれば、今のまま暮らしていられた。

「しかたがないじゃありませんか、浅井の後継者はあなたしかいないんですから」
「だからっ」

俺は浅井の跡取りになりたくはないんだ。
俺なんかじゃなくても、優秀な人材は山ほどいるだろう。
浅井の跡を継ぎたい縁戚だって大勢いる。

「営業職をしていらしたと聞いて、忍耐力がついたと思いましたが、」
まだまだですねと言いたそうだ。

「すみませんね。わざと怒らせようとする人の前なのでつい」
「このくらいで腹を立てられては、先が思いやられます。もう少し大人の対応をお願いします」

大人の対応ねえ、守口さんが子供扱いしているだけだと思うけれど。
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