同期のあいつ
「兄に弱みを握られて押し切られました。ごめんなさい」

「フーン。何したの?」
「え?」
「どんな弱みを握られたの?」
「・・・」
答えられない。

私は高田を思い出していた。
昨日一日一緒に過ごして、すごく幸せだった。
無理だとはわかっていても、ずっとこうしていたいと思った。
昨日のあれもデートなのかなあ。お家デート。
ヤダ、私二日も続けてデートしてる。

「華さん。一華さん」

え?
いけない、ボーッとしていた。

「どうしたの、大丈夫?」
「ええ、すみません」

「今、何考えてた?」
「え?」

今って、

「どんな悪さをしたのか、今何を思い出していたのか、言って」
「えっと・・・」

悪さをしたって、最初から私が何かしでかした前提なのが腹が立つ。

「ねえ、一華さん」
「はい」
「医者ってね、結構忙しいんだ。楽して金儲けをしているように思われがちだけれど、月金で外来や病棟の受け持ち患者の診察をした上に、当直や救急当番があったり、山のように来る紹介状や診断書の作成依頼も時間を見つけてやらなくちゃいけない。それを全部こなした上で、学会の準備もしなくてはいけないからね。俺たちみたいな若手の医者にプライベートなんてないんだよ」

これは、忙しい俺の時間を無駄にさせるんじゃないって言ってるんだよね。

「それは申し訳ありませんでした」
素直じゃない私は嫌みっぽく言ってしまった。

「それで、何しでかしたの?」
やっぱり聞きたいらしい。
聞いて楽しい話とは思わないけれど、こうなったら話すしかない。

「ちょっとしたミスをしてしまって、それを素直に話せば良かったのに隠したものだから、大騒ぎになりかけたんです」
「それで?」
「私のせいで同僚や直属の上司が処分されるのが我慢できなくて兄に頼み込みました『なんとかして欲しい』って。その交換条件が」
「今日のデート?」
「はい」

「で、わがまま一華ちゃんはデートの最中にその上司のことを考えていたと?」
「いえ、そんなことは・・・」
「違うの?」
「いえ・・・」
違わない。
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