となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 まさか! この声……


 社長らの向こうに、背の高い一也の顔が見えた。

 当然だが、一也は私に声をかけるわけも無いし、目すら向けてこない。
 だけど、私の胸は一気に、キューンと締め付けられた。


 一也は、社長と少し言葉を交わすと、並んで一緒に歩き始めた。まさか、一緒に行くつもりじゃ。
 だいたい、大手企業の社長が下請けの下請けに過ぎない会社の社員の二次会に行くなんてありえない。

 そもそも、なぜここに居た?



 それでもさっきまでは、皆との話しに笑い合って歩く事が出来ていたのに、気づけば私は黙って皆の後についていた。


「どうしたのよ? 急に黙りこくって…… やっぱり今日は変だわね」

 一緒に歩いていた堀野さんが、覗きこむように私を見た。


「いえ、いえ、別にそんなこと……」



「そりゃあ、篠山さんだって、あんな大手の社長が一緒じゃビビるわな。仕事も出来てカッコいいけど、あの無表情で見られたら、俺だって怖いよ。すげーオーラが出てるもんなー」


 同期で中の良い、営業部の加藤君が大げさに身震いして言った。


 怖い……
 確かに怖い……

 でも、私の怖さは加藤君とは明らかに違う……


 一也、忙しいはずなのに、なぜこんな所にいるのだろう? 仕事は大丈夫なのだろうか?
 早く帰れるなら、少しでも家で休めばいいのに……


 一也の背中を見つめた。
 まさか、私を探しに来たわけじゃないよね?
 だって、飲み会の場所も言ってないし、知るはずもない……




 
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