となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
おまけ2
~コンシュルジュ~

 海外でも有名な大手ホテルグループでコンシュルジュを務め、数か月前このタワーマンションへ異動となった。別に希望を申し出たわけではないが、異動に不満もない。
 たいして業務内容に変わりもないと思っていた。



 だが、マンションとは生活の場であり、私が客とする住人は引っ越ししない限り変わらないのだ。
 
 ホテルのように、慌ただしさや毎日変化があるわけではない。住人の快適で安全な生活を守る中、ホテルとは違う信頼関係が出来てくる。



 しかし、住人全員と上手くいくわけではなく、挨拶も返さなけば、奴隷かのように乱暴な口調で支持してくる者もいる。だが、高級マンションを手に入れるだけの事はあり、気品があり常識あるあ方がほとんどだ。


 「おかえりなさいませ」

 頭を下げる。


 高級そうなスーツをビシッと決め、がたいのいい体格に、眼鏡をかけた姿はクールで声をかけがたい。

 最上階に住む、広瀬一也。私とたいして歳は変わらないと思うが、あまりに違う世界で生きていいる。そんな印象だ。

 広瀬様は軽く頭を下げ、そのままエレベーターに乗り込む。いつも変わらない。


 数分後、ダウンにニット帽。
 さっきのスーツ姿とは全く別人の広瀬様がエレベーターから降りた。始めに見たときは、同一人物だとは気づかないほどだった。
 だが、どちらの広瀬様も人を寄せ付けない、そんなオーラがあった。そして、広瀬様に来客がある事も無かった……


 しかし、この日は違っていた。

 午前零時を回ったころ、エントランスに一台のタクシーが停まった。降りてきたのは広瀬様だ。だが、彼は女性を抱えて降りてきたのだ。
 あまり見てはいけない光景だとは思うが、私の仕事上、暗証番号を押し、エレベーターを開けるお手伝をせざるを得ない。
 女性のカバンを持っている広瀬様は、エレベーターのボタンを押す事すら出来ない。

 「お部屋までご一緒しましょうか?」

 広瀬様にお聞きした。

「ああ。すまない」

 私は、広瀬様の手にしているバッグを受け取り、エレベーターに一緒に乗りこんだ。
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