となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 翌朝、まだ薄暗い中、エレベーターが開いた。


 慌ただしく降りてきたのは、昨夜広瀬様が抱えていた女性だとすぐに分かった。コートとバッグに見覚えがある。


「おはようございます」

 挨拶すると、小さく頭をさげ、あたふたと走り去ってた。エントランスを抜けると、マンションを振り返り、驚いた目がとても印象的な女性だった。
 
 

 数時間後エレベーターから降りてきたた広瀬様は、いつもと変わらずスーツをビシッと決め、冷静な足取りだ。
 だが、私に何か聞きた気な目を向けたのは気のせいではないだろう?


「行ってらっしゃいませ」


「夕べはすまなかった」

 彼は、礼儀正しく頭を下げた、本当は気持ちの暖かい人なのかもしれない、ふとそんな気がした。


「昨夜の方は、駅の方へ向かわれたので、大丈夫かと思います」

 余計な事だとは思ったが、何か言わずにはいられなかった。


「あっ。そうですか……」

 わずかだが、眼鏡の奥の彼の目がほっと緩んだのを見逃さなかった。


 なんだか面白い事が起きそうだ。
 コンシュルジュとしては、不謹慎かもしれないが、私はなんだかウキウキした気分になった。


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