となりに座らないで！～優しいバレンタイン～
　タクシーは一軒のイタリアンレストランの前で止まった。
　社長は支払いを済ませタクシーを降りていく。私も、降りた方がいいんだろうか？
　正直、帰りたい。とても、社長と食事の緊張感に耐えられる自信が無い。

「いいから、降りろ」

　社長の声に、「はいっ」と返事をすると、慌ててタクシーから降りてしまった。
　遠くなって行くタクシーの姿に、小さくため息をついた。



　社長の後に付いてレストランの入り口を入ると、シックな雰囲気の内装が、なんだか気持ちを和らげてくれた。

　「いらっしゃいませ」
　と、頭を下げたスタッフに向かって、社長が言った。

「真治に言ってある」


「はい。お聞きしております。こちらへどうぞ」


　案内されたのは窓際の一番奥のテーブルで、ほぼ店の中は満席だった。
　急に予約など取れたのだろうか？　それとも、他の誰かと来る予定だったのだろうか？
　なんだか少し申し訳ないような気持ちになって下を向いてしまった。

「よう！」

　私の気持ちとは反対に、社長は明るいこ声を張り上げた。
　


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