となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
恋って何なんだ
~ 一也 ~

 クソーっ。
 何でこんなに忙しいんだ。
 トラブルがあるときは、必ずと言っていいほど次のトラブルを引き起こす。

 その上、おやじが社長から会長になると言いやがって、挨拶回りなんぞも控えている。
 俺が始めたリゾート開発部門と建設部門を俺が社長としてやり、製品部門については三つ年下の弟の晃が、専務として仕切る事になった。
 
 まあいい、早かれ遅かれそうなる事は分かっていた。


 工期の遅れなど各部門の責任者に任せられるが、始めたばかりのリゾート開発ともなると、そうは行かない危機も起きる。


 「一也、準備はいいか?」

 会長になったおやじに言われ、乱れた髪を整え眼鏡をかけた。

 「ああ」

 俺は、会社では一切笑わない。仕事に余計な感情を持ち込み、面倒臭い事になるとスムーズに行く事も行かなくなる。
 それに、ちょっと愛想良くすれば、女どもが近寄ってきて追い払うのも面倒くさい。それなら、一層の事冷酷社長と言われた方がマシだ。


 会長の車の後部座席に乗る。

 「今日は、どこを回りますか?」
 俺の言葉に、助手席の会長秘書が直ぐに答える

「山ノ内建設と、吉永商事、豊川コーポレーションを予定しております」


「山ノ内建設? おじさんの所なら会った時でいいんじゃないのか?」


「そう言うな。あそこは小さいが、絶対的な仕事をする。必ず、お前を助けることになる。一度会社を訪問するのもいいもんだ」

 山ノ内建設の社長とは、おやじの古くからの友人で、大きな取引はないものの、いざという時、助けられているのは確かだ。だが、この忙しい時にわざわざ行かなくてもいいと思うが、仕方ない。

 
 車は、山ノ内建設のエントランスに停まった。

 

 
< 20 / 125 >

この作品をシェア

pagetop