となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 篠山は、社長室のドアをノックした。

「広瀬様をお連れしました」


 俺が社長室に入ると、おじさんは篠山の方を見て言った。

「ありがとう」

 社長のおじさんは、礼を言った。ただ客を案内しただけの女子社員に……
 俺には考えられない光景だった。だが、驚くこともない篠山の様子に、この会社では当たり前の事なのだろう。
 なんだか、自分が大事な事を忘れているような、何か欠けているような複雑な気分だった。


 部屋を出て行く篠山の後ろ姿に 慌てて言った。

「ありがとう」

 俺には、これが精一杯だった。
 今の俺にこれ以上の何が出来たというのだ。誰か教えてほしい。

 篠山は振り向くと、口元だけ緩め頭を下げた。

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