となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 またもや、この大量の荷物を下げ、コンシュルジュの前を通った。コンシュルジュは、驚く事もなく、荷物を運ぶのを手伝ってくれた。



 部屋に入ると、彼はスーツに着替え寝室から出てきた。

「悪いが、やらなけばならない仕事がある。夕食までには戻るから、一緒に食事に行こう。それから、洋服はクローゼットを好きに使えばいい。なんでも自由に使っていいから」

「うん……」

 好きに、自由に、嬉しいけど…… まだ、ここに暮らす実感がわかない。
 いつまでここに居るのだろう?
 いつまでここに居られるのだろう? 

 それは…… 彼が私を好きで無くなったら…… 別の誰かを好きになったら……


「何考えているんだ?」

 彼の大きな手が、私の頭の上に乗った。


「困ったなって……」


「何がだ?」



「うーん…… 広瀬さんが他の人好きになったら、出て行かなきゃなだなって……」


「バカなのか?」

 彼にギュッと抱きしめられた。

「だって…… 広瀬さん社長だし…… 私なんか、すぐに飽きるかも……」



「俺は、友里以外の女は好きにならん。なれない…… 俺には分かるんだ…… 
 
 この部屋は、友里の好きにしていい」


「本当に? 好きに使っていいの?」


「ああ…… だけど…… 広瀬さんじゃない? 夕べはちゃんと名前で呼んだくせに。じゃあ、行ってくる」

 彼は、軽くキスをすると、玄関へと向かった。
 私の顔は、一気に熱くなった。


 私は、慌てて彼のいる玄関へと向かった。

「いってらっしゃい」

 振り向いた彼の顔は、ほのかに赤くなっていた。それを隠すように、ポケットから眼鏡を出してかけた。
 冷酷社長の出来上がりだ。


「行ってきます」



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