となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 彼は私の目を見ているが、瞬き一つしない……


「ねえ? どうしんですか?」


 彼は、はっと我に返ったように、動きだした。


「いや……」
 
 彼は、そう言ったが、チラリと見た横顔はニヤニヤしている。


 そして、リビングに入った彼は、またフリーズした。


「好きにしていいって言いましたよね……」

 黙って立っている彼に向かって言った。


「ああ…… しかし、本当に俺の部屋か?」


「嫌ですか?」

 恐る恐る伺った。

 眼鏡を外した彼は、私の方へ歩みよって来た。


「まさか。うまく言えないが、ほっとする……」

 彼の手が、私を引き寄せぎゅっと抱きしめた。


「すぐに夕食ができるので、お風呂入って来てください」


「えっ? 飯も作ったのか?」

 彼は、驚いた顔で私を見下ろした。


「味の保証はしませんよ。準備するので離れて下さい」

 私は、キッチンに立つ。彼は、寝室へと入って行った。


「わーっ」

 彼の悲鳴が聞こえた。


「どうですか?」

 部屋を覗いた私は、すぐに彼の唇に塞がれた。


「今夜が楽しみだな」

 彼は、ニヤリとしてお風呂へ向かった。


 「そういうつもりで、ベッドカバーを替えたんじゃない!」と、叫んだときには彼はもういなかった。






 
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