となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 深い眠りから、肩を揺さぶられ目を覚ます。

 少し怒った顔の友里の顔がある。夢じゃなかった…… それだけで俺の気持は安心という、初めての感覚に涙しそうになった……


 とにかく、彼女に必要な物を買ってやらねばならない。ショッピングモールに向かった。
 手当たりしだい好きな物を買えばいいのに、彼女は鏡を見ては、一枚づつ選んでいる。俺は、彼女が鏡で合わせた物を手に取って重ねていった。正直、どれも彼女にすごく似合っていると思う。
ただ、あまり短いスカートは除外したが……

 やはり、レジのカウンターに彼女が置いた服は三枚ほどだった。俺は、その上に、手にしていた服をどさっと重ねた。


 まだまだ、必要なものはある。
 だが、彼女はなんだか機嫌が悪い…… 無駄遣いだと言う。俺には、友里の物を買う事に、これっぽちも無駄だんて思わないのに……



 マンションに戻ったのは昼過ぎだ。
 どうしても、今日やっておかなければならない仕事がある。正直、友里から離れるのは不安だった。


 夕食の約束をして、会社へと向かったが、とにかく早く帰りたくて仕事に集中した。

 でも、正直気になって仕方がない。友里は今頃何をしているだろうか? ちゃんと服はクローゼットにしまってくれたのだろうか?

 全て、俺のわがままで強引に推し進めてきてしまった。彼女の同意もなく、彼女を抱いた……
 後悔しているわけではないが、少しでも彼女のそばにいて、俺に気持ちを向けたい。


 不本意の彼女にとって、今、どんな気持ちなのだろうか?
 きっと、ソファーの片隅で、固くなって座っているのだろう?


 早く帰って、旨いものでも食べに行けば、また、笑顔になってくれる。そう、信じたい……


 俺は、仕事が片付くと、急いでマンションへと車を走らせた。


 エントランスでコンシュルジュが意味ありげな笑みを見せる。


 不安のまま、ただ、彼女を抱きしめたくて、入り口のカギを開けた……

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