となりに座らないで!~優しいバレンタイン~
 そして、俺はまたもや耳を疑った。

「すぐに夕食ができるので、お風呂入って来てください」

 リビングに入った時から、確かにいい匂いがしていたが、思ってもいない変動に俺は意識が回っていなかった。

 キッチンを見ると、何も置いていなかったカウンターの奥に、様々な物が並んでいる。同じキッチンとは思えない、息を吹き込まれたかのように生き生き見えた。



 着替えを取りに寝室に入る。
 ベッドカバーが変わっているのだと思う…… それだけなのに、雰囲気が全然ちがう……
 彼女の好みかと思うと、ニヤニヤが止まらない。

 「今夜が楽しみだな」


 何か騒ぐ、彼女の声が聞こえたが、俺は脱衣所のドアを開けた。

 生活……
 今まで気にしてこなかった…… 寝るだけの場所……
 この部屋が生活の場所と変わって行く事が、気持ち良かった……
 風呂のお湯を、バシャっと顔にかける。
 嬉しくてたまらない……

 風呂から、スキップしたい気持ちを抑え、リビングに戻った。
 
 テーブルの上には、見るからに旨そうなハンバーグが並んでいた。手作りの料理など何年ぶりだろうか…… そんなものに興味も無かったし、必要もないと思っていた。

 一切れ口に入れた途端、じわーっと胸にしみた。
 暖かくて……
 そして、旨かった……


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