溺愛の価値、初恋の値段

近いうちにまた会うことを約束し、わたしたちをお店の出口まで見送ってくれた音無さんは、ふと思い出したように飛鷹くんに訊ねた。


「それにしても……さすがはイケメンIT実業家。よく、僕と咲良が付き合っていたことがわかったね? 当時もいまも、僕たちは誰にも言ったことがないのに」

「その呼び名、恥ずかしいのでやめてください。すばらしい料理と美貌で食べる人をうっとりさせるイケメンシェフ音無さん」


飛鷹くんの切り返しに、音無さんがむせた。


「ごほっ……な、なん、その恥ずかしい呼び名っ……だ、誰が……」

「イタリアンのシェフ、ジェズアルド・ヴァイオですよ。彼の息子が、僕のビジネスパートナーなんです。ジェズは、日本の料理雑誌にコラムを書くことになったらしくて、第一回目はあなたのお店を取り上げるつもりだと言ってましたよ」

「昨夜来た時は、そんな話ひと言も……」

「よかったですね。素敵な通り名がついて。お店、ますます繁盛しますね?」


 にっこり笑う飛鷹くんに、音無さんは憮然として言い返す。


「メディアで取り上げられても、口コミで予約してくれる客を優先するスタイルは変えないよ。僕じゃなく、僕の料理を楽しみに来てもらいたいからね。それで、どうやって調べたんだい?」

「咲良さんから、海音の名前は父親からもらったと聞いていたんです」

「なるほど……せっかくできた娘をすぐに手放さなくてはならないなんて、ものすごく不本意だけど、咲良が認めた相手ならしかたないか」


肩を落とす音無さんに、飛鷹くんは珍しく気弱な笑みを見せた。


「認めてもらえるかどうかは、まだ微妙なところですけれどね」

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