溺愛の価値、初恋の値段


音無さんの家のお風呂は、本人が自慢したとおりに快適だった。
浴槽にジェットバスが付いていて、テレビもある。

シャンプー、トリートメント、ボディーソープは揃いのブランドで、シトラス系のいい匂いがする。
強張った身体が解れて、ギリギリと緊張で締め上げられていたこめかみの痛みも緩む。

お風呂から上がると、音無さんはゲストルームに案内してくれた。


「うーん、そのズボンは……どうしようもないね」


さすがに、コンビニにパジャマは売っていなかったので、下は音無さんの比較的小さいズボンを借りたのだけれど、裾をまくり上げた部分がドーナツみたいになっている。


「寝るだけだから、気になりません」

「ベッドの寝心地はそんなに悪くないと思うけど……」

「わたしのアパートのより、断然いいです」

「よかった。じゃあ……おやすみ」


ほっとしたように笑う音無さんにつられて、自然と笑顔になれた。
きっと、何があったのか気になっているはずなのに、音無さんは訊きたいという素振りも見せない。

その気遣いに感謝して、呟いた。


「おやすみなさい」
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