敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
「生巳、この間はありがとね! 楽しかった~。生巳の愛しの彼女もお目にかかれたし」

「お気楽だな……こっちは仲がこじれたってのに」

「ん? なに?」


ボソッと呟いた言葉が聞き取れなかったらしく、彼女は隣に腰かけながらキョトンとする。俺は「なんでもない」と首を振った。

あのとき慧子は、花乃がいない隙に俺の隣に来て腕を絡めた。なにをしだすのかと一瞬ギョッとしたものの、彼女なりに俺を思ってのことだろうとすぐに解釈した。

しかし、万が一あの場面を花乃が見ていたとしたら、誤解されても不思議ではない。

帰ったら早急に誤解を解かないと……と、もどかしさを抱きながら、黄金の液体が注がれたグラスを受け取る。

そのとき、再び皆がざわめいて、新たにやってきた仲間との再会を喜び始めた。その中心にいるのは、スーツ姿の烏丸だ。

しばし皆と話したあと、彼も俺たちのほうへやってくる。が、その顔に営業用の小憎らしい笑みはなく、覇気もない。

慧子も、烏丸の様子が普段と違うことに気づいたらしい。


「烏丸くんも、この間はありがとー。って、なんか元気なくない?」

「別に……秒速でフラれたの初めてだなって思って」
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