モブ子は今日も青春中!
第四章
俺様 ⑤
ここは隣のクラス。
「Tシャツ、ありがとうございましたぁ!!」
私は深々と頭を下げて、運動部並みに張り上げた声で、机に片肘をつく蓮見くんを前に、緑の軍Tを差し出していた。
体育祭の熱狂が去り、秋の少し冷えた空気に校舎全体も平静を取り戻しつつある。
でも、あの日の出来事は、私の周辺に多少の狂いを残したままだった。
モブの私は今、あえて目立たなければならない。
なぜなら周囲の人間に対する『たまたま軍Tを、お借りしただけですよ』という印象づけが必要だからだ。
『私、蓮見くんとはなんにもありませんよ』アピールである。
下げた頭の上から、フッと彼の笑う声が聞こえた。
「それ、お前にやるよ。」
「!!」
なんと!それじゃあ困るんですよ、蓮見くん!
「やだなぁ、蓮見くん。私がこれをもらうと、どういうことになるか、わからなくはないでしょうに。」
顔を引きつらせて、蓮見くんを見やる。
「…お前の周り、結構おもしろいんだよね。これがきっかけでなんか起きたら楽しそうじゃん。」
何を言ってるんだ、あんた。
今まで、たくさん迷惑をかけたけど、変なこと考えないで。
「俺の軍Tはかなめにあげたの。頼むよ…受け取ってくれるよな、かなめ?」
クラスがどよめく。
ああー。
お前まで変な演技で印象操作するのやめろやー!
無駄に大きい声で周囲の視線を集めることに成功した私は、結果的に大きな墓穴を掘ることになったのだった。
怒りから全身が震え、頭に血が上った私を見て、周囲にいる人々は、感涙を堪え、ぽっと頬を染めていると捉えたらしい。
『蓮見帯斗と三津谷かなめ(え?誰それ?)が付き合っているらしい。』という噂は、校内を瞬く間に駆け抜けた。