モブ子は今日も青春中!
俺様 ④
後夜祭のフィナーレ、円陣を組むまで特にすることもないので、センチメンタルに星や月を見ていただけなのに、蓮見くんの目には独りぼっちで空を見上げる変な人に映ったらしい。
蓮見くんは、女子に囲まれ、自分の軍Tを奪われそうになるのを回避して、ここまで逃げてきたのだそうだ。
さすが、モテる男は違う。
「星がきれいだねえ。」
「お前の兄ちゃん、何やってんの?」
…おい、私の話を軽く遮るなよ。
私と一緒に星の煌めきについて語り合うつもりなんて、さらさらないようだ。
蓮見くんの態度に怒りを覚えつつも、ファイヤーストームの方を指で指し示す。
「ああ、生徒会ね。」
なんで今、兄ちゃんの話をするんだ?と疑問に思い、蓮見くんの次の言葉を待つ。
「………。」
「………。」
ファイヤーストーム用の水をバケツに汲んで運んでいる男子生徒たちが、私たちの座る縁石の前を通った。
1人がもう1人の脇腹を、くすぐろうとしている。笑い声が次第に余裕のない声に変わる。
そのときだった。
「お前、やめろって、マジで!」
『バシャーン!!』
……え?
「あ、やべえ。」
「お前、…ふざけるから!」
一瞬何が起きたのかわからなかった。
でも、風が吹き抜けると、とんでもなく寒くて両腕を抱える。
前髪から滴る水滴…。
バケツを手に私を見て、慌てる男子生徒たち。
濡れて下着のラインがはっきりとわかるTシャツ。
これは…これは、バケツの水がかかったな。
とりあえずお前ら謝れよと言ってやろうと顔を上げたとき、頭の上から緑の布がかけられた。
「とりあえず、かなめに謝れよ。」
隣に座っていた蓮見くんが、自分のTシャツを脱いで、頭から被せてくれたのだと気づく。
蓮見くんから威圧的な視線を受けた男子生徒2人が、少し大きめの緑の軍Tに袖を通した私に、いそいそと謝ってくる。中の服はぐしょぐしょに濡れているから、最高に気持ち悪い。
蓮見くんはそれを見届けると、私の手を取り、「着替えに行くぞ」と言った。
蓮見くん、上半身裸じゃないですか。なんか本当、いつも迷惑かけてすみません。
ファイヤーストームの炎に照らされて、筋肉の陰影がはっきりとした蓮見くんの背中を見ながら、そんなことを考えた。