モブ子は今日も青春中!
噂話にうんざりしました
翌朝、お母さんの用意しておいてくれた朝食を食べていると、兄ちゃんが2階から降りてきた。
お父さんとお母さんは、もう仕事に出てしまっている。
兄ちゃんもすでに制服に着替え、リュックを肩にかけていた。まるでもう登校するような格好だ。
「え?兄ちゃん、今日朝ごはん食べないの?」
「かなめ、お前さ…。」
兄ちゃんがトーストを頬張る私を見る。
「ん?なに?」
「……いや、やっぱりなんでもない。用事があるから、もう行くわ。」
それだけ言うと、兄ちゃんは先に家を出て行ってしまった。
私は家族写真が飾ってある棚の上からリモコンを取り、パンをモグモグと噛みながら、チャンネルを変えた。
その後、学校に登校した私は、蓮見帯斗という存在の影響力の高さをまざまざと見せつけられることとなる。
友だちに誤解され、茶化されるくらいはまだほんの序の口だった。
ほんわか笑顔で「いつの間に?おめでとう!」と両手を叩く優里亜ちゃんを制止して、「自分はモブキャラとか言っといて!」と爆笑するなみの口元を羽交い締めにして抑え、素早く2人の誤解を解いた。
でも、そのくらいじゃ収まりはつかない。
さすがは蓮見帯斗、主要キャラクター。
「あの子が三津谷さんだよ。」
「えー!かたる先輩の妹なんだよねぇ?」
「俺、ちょっと期待値高過ぎたわ。」
「なんか、普通だね。」
どこを歩いていてもひそひそ話が聞こえてくる。
何これ、言葉の暴力?
私、何もしてないのに。
完全にもらい事故だわ。
好奇の視線にげんなりする。
私、モブキャラなのに。
全然楽しいことなんて起きないんですが、蓮見くん。
それから3日が過ぎて、私はいつまでも終息しない噂に辟易していた。
『慣れろ。』
文句を言いに行った際に、蓮見くんから言われた言葉を思い出し、怒りが再燃する。
『本当に困ったことが起きたら、助けてやるから。』
そんなこと言われても、ドキッとときめいたりしないんだからな。
『ふざけんな!誰のせいだと思ってるんだ!』
と怒りを爆発させて蓮見くんを見れば、
『はははっ!』
と、これ以上ないくらい楽しそうに笑われてしまった。
さすが、というべきか。彼にはこのくらいの噂は日常茶飯事なのかもしれない。でも、私は違うし!
「三津谷さん、ちょっといいかな?」
イライラしっぱなしの私の前に、さらなるイライラのもとが降りかかる。
「一緒に校舎裏まで来てほしいんだけど。」
得体の知れない女子の群れ。
ああ、これって…。
こういうベタな『呼び出し』って本当にあるんですね。