モブ子は今日も青春中!

俺様 ⑦


 保健室の先生に下を向いて鼻を押さえているように言われる。
 室内は鼻をおさえていてもわかるほど薬品の匂いが充満していて、あまり慣れていない私には、座っている長椅子もなんだか居心地が悪かった。

 クラスマッチは、1、2年生だけの行事だったけど怪我をする生徒が多く、先生はとても忙しそうだった。
 1人、また1人と入ってきては、湿布や包帯を施され、保健室を後にしていく。

「先生!バスケをしていた男子が足痛めて動けないみたい!一緒に来て!」

 そんな急病人も出て、「こんな季節にろくな準備運動もせずに、運動するから!」と半ばキレ気味に、先生が立ち上がる。

「三津谷さん、ちょっと私、体育館の方に行くから。鼻血止まったら、あなたも…そこの付き添いの彼も出てっていいわよ。」

 体育科に文句言ってやると息巻いて、先生は保健室を出ていった。

「……。」

「……。」

 急速に本来の静けさを取り戻す保健室。長椅子で鼻をつまむ私と、その横に立つ蓮見くん。



「…なあ、かなめ。」

「……っ!!」

 蓮見くんの発した声に驚く。
 だってそれは、今までの彼とは明らかに異なる、妙に艶めかしい声だったから。

「な、…なに?!」
 思わず、目を合わせずに応じる。

 どうしてかわからないけれど、今、蓮見くんと目を合わせていけない気がした。

「は…鼻血、止まったみたいだし、もう行こっか!」
 鼻を押さえていたティッシュを手離し、長椅子から立ち上がろうとする。

 だけど、それは簡単に阻止される。

 蓮見くんが私に覆い被さってきたのだ。


「なになになに、蓮見くん、体調悪いの?!」

 動揺で明らかに饒舌になる私。
 一方の蓮見くんは、黙ったままで。

「………。」

 そのまま蓮見くんが、私に顔を近づけてくる……。
 イケメンだ。イケメンだけど…、

「やだやだやだやだ!本当にやだっ!!」

 鳥肌が立つ。
 顔が青ざめる。
 …兄ちゃんのことを思い出す。


「…なーんてな。」

 鼻先が触れる寸前で、蓮見くんがペロッと舌を出した。

 笑いながら離れていく蓮見くんに、目を見張る。

 …こ、腰が抜けた。

「お前、兄ちゃんのせいで他の男を知らなすぎなんだよ。だから兄ちゃんのことどう思ってんのか、自分で気づけねーの。」

 蓮見くんの言っていることは、いつもわかるような、わからないような…。難しい…。私の前に立ちはだかるバカの壁が邪魔をする。

 ただ、触れられそうになったとき、本当に嫌だって思った。
 兄ちゃんのことが胸をよぎった。
 なんで兄ちゃんのことを考えてしまうんだろう…。

 その時、



「かなめ!」

 保健室のドアが勢い良く開き、兄ちゃんが飛び込んできたのだった。
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