モブ子は今日も青春中!
俺様 ⑥
「お前の兄ちゃん、超絶おもしろいんだけど。」
2学期最後のクラスマッチ。
バレーボールとバスケの選択で、くじ運のない私は、なみと優里亜ちゃんと離れて苦手なバレーボールに参加していた。
大した活躍もできず、試合後、バレーボールのコートを眺めながら、壁の花(雑草か?)と化していた私に、たまたま隣のコートで試合を終えた蓮見くんが話しかけてくる。
噂は落ち着いたものの、彼と話すときは周囲の目を警戒してしまう。
「…大丈夫だよ。それよりお前の兄ちゃん、とうとうタガが外れたな。」
「タガってなによ…。」
ため息を吐く私に、蓮見くんが苦笑する。
「力になってやれるかもしれないから、何があったのか、教えろよ。」
私は疑念の目を向けつつも、蓮見くんに、兄ちゃんとは本当の兄妹じゃなかったこと、兄ちゃんから告白されてどうしたらいいかわからなくなっていることを打ち明けた。
意外…と言っては失礼だが、蓮見くんは真面目に私の悩みを聴いてくれて、どうしたらいいか真剣に考えてくれた。そのことにちょっとだけ感動する。
「結局さ、大事なのはお前の気持ちだろ?お前、誰かを好きになったことってないの?」
蓮見くんに言われてハッとする。
実は私、初恋もまだで、恋に恋する乙女ゲームマニアだったのだ。
好き…という気持ちが、どういうものか口で説明できたとしても、好き過ぎて胸が苦しくなることも、ときめいて心拍数が上がってしまうことも体験したことがなかった。
「…ない。と言うか、今まで男子とこんな深い話をしたこともなかった。」
蓮見くんが、納得する。
「お前、兄ちゃんに外堀を固められてるもんな。」
いまいちよくわからないまま「うん…。」となんとなく頷く。
その時だった。
「三津谷、あぶない!」
先生の声とともにバレーボールが飛んできて、顔面を直撃。
うわー、漫画みたいだな、モブじゃなくて主人公みたいだなと思いながら、私は倒れ込んだ。
「………。」
一度は倒れたものの、やはりここはゲームの世界でも漫画の世界でもなかった。
自力で起き上がることができ、恥をかいただけで終わる。めっちゃくちゃ鼻が痛い。
「大丈夫か?」と駆け寄ってくる先生や試合中の生徒の前で、鼻血がつーっと流れた。
恥辱の極み…!!
その様子を肩を震わせながら見ていた…むしろ見ているだけだった蓮見くんが「俺、保健室連れていきます。」と提案してくる。
蓮見くんの言葉に、周りの生徒や先生が恍惚とした目で頷く。
なんで、お前だけ好感度上がるんだよ!
…鼻血をティッシュで拭いながら、私は蓮見くんを睨み上げた。