モブ子は今日も青春中!
後輩 ④
優馬に連れられてやってきたのは、バスに揺られて15分、さらに電車に乗って30分の有名オシャレスポットだった。
こんなに人が多くて、意識高い系の人が集まる街に、こんな格好のまま来るなんて、失敗したなと思う。
「この店、オシャレでかわいいけど、安くていいんですよ!」
優馬がイキイキとしている。
『この服いいな。レディースだけど、俺も買っちゃおうかな。』なんて呟いている姿をボーっと眺めていた。
気分は、孫の買い物につき合うお婆ちゃんだ。
なんとなく、マネキンに飾られている洋服を眺める。
あのお姉さん、オシャレで格好良かったなあ、パンプス似合っていたなあ、と、また昨日のことを思い出す。
「先輩!これと、これと、これ。どれがいいですか?」
優馬が、嬉々としてパステルカラーやチェック柄のスカートやワンピース、ファー素材のニットなどを選んでくれる。
「ありがとう。」
私はいくつか好みのものを選んで、試着させてもらうことにした。
試着した中で気に入ったものを、数点だけ選び、購入する。
昨日もお金を使ったし、洋服代は別にしているとはいえ、散財はできない。
「先輩、今日そのまま着ていったらどうですか?」
よぼとコートの下から見え隠れする私のスウェットが嫌なのかと思ったが、目を爛々とさせ、大好きな洋服を見ている優馬に、何も言わずに従おうと思う。
「そうする、ありがとね。」
おかげで、私もちょっと気分転換ができた。
白のタートルネックと、青いチェックのロングスカート、ファー素材のグレーのベレー帽。斜めに被った帽子の下には2つに分けた三つ編みをゆるめに結ってみる。
ちょっとは街に解け込めただろうか。
「お茶でも飲んで帰ろうか?」
そう優馬に提案し、外に出たときだった。
私は知り合いと目が合った。
「え?桜井先生と…、」
…昨日、兄ちゃんと一緒にいたお姉さん?
桜井先生が私から目を逸らし、バツの悪そうな顔をしていた。