モブ子は今日も青春中!

カフェに行きました



「まさか、こんなところでお前に会うとはなぁ。」

 桜井先生が無精髭をかきながら言った。
 オシャレな街のオシャレなカフェにいるからか、先生の派手な服装や無精髭さえ今日はオシャレに見えた。

「あなたが、三津谷かなめちゃんね。」

 向かいに座るお姉さんが嬉しそうにこちらをニコニコと眺める。
 綺麗なネイルの施された指が、スプーンを使ってコーヒーを混ぜた。


 店の前で遭遇したあと、少し気まずそうにする先生を引っ張り、このお姉さんが、私たち2人をカフェに誘ったのだ。

 私のこと、知っているのかな?兄ちゃんとはどういう関係?桜井先生の知り合い?

 聞きたいことが山程あって、何から口にしたらいいかわからない。

「かなめさんと一緒にいるのは…。」

「高倉優馬です。かなめ先輩の中学時代の後輩です!」

 完全に状況がわからないアウェーな環境にも関わらず、人懐っこく尻尾を振ってみせる優馬に関心する。
 優馬、つき合わせてごめん。

「へえー。デートみたいね。」

「あ、いえ、そういうのじゃなくて、お互い気晴らしに遊んでただけで…。」

 慌てて否定する。
 お姉さんは、「ふーん。」と微笑んだ。
 

「…あの、なんで私のこと、ご存知なんですか?失礼ですがお名前は…?」

 お姉さんは『あら?』と笑って、
「ごめんなさい。伊吹よ。」
と答える。

 桜井先生が髪をかいてため息をつく。

「俺の高校時代の同級生なんだよ、伊吹は。たまに、こうして一緒に出かけてる。」

 2人はつき合っているのだろうか?
 お姉さん…伊吹さんがロングの髪をかき上げた。

 私は優馬に桜井先生のことを紹介する。うちの高校が第一志望の優馬は、桜井先生が志望校の教師だと知って、急に恐縮し始める。


「……あの、違っていたらごめんなさい。」

 私はどうしても気になっていることを伊吹さんに尋ねることにした。

「昨日、伊吹さんとうちの兄が一緒にいるのを見てしまった気がするんですけど…。兄とはどういうご関係ですか?」

 すると、伊吹さんはまた『あらあら』と微笑む。

「あなたにはどういう関係に見えたのかしら?」

「……え?」

 思わぬ返答に戸惑う。

 楽しそうに歩く2人を思い出して、表情が曇る。胸の辺りがチクチクと痛んだ。

「男女が2人で出かけるって、そういう誤解をされやすいものよ。あなたも大切な人がいるなら、気をつけた方がいいわ。」

 私のこのモヤモヤした気持ちに気づいたかのように伊吹さんが答えると、桜井先生がため息をついて、また髪をかいた。

 
 伊吹さんは、兄ちゃんのことをそれ以上は教えてくれなかった。

 伊吹さんに電話がかかってきて、急な仕事が入ったとのことで、その後すぐに2人は出て行ってしまった。

 さり気なく去り際に伝票を持って行ってくれた2人に、優馬が感服の声を上げる。

「かっこいい人たちでしたねー!」

 私もアイスティーをストローでかき混ぜながら頷く。

「結局、うまくかわされちゃったけど。」

「でも、あの言い方だと、先輩のお兄さんの彼女さんではないってことなんじゃないですか?」

「…うん。」

 私のモヤモヤは、なぜか心にしつこくこびりついて、なかなかきれいに晴れてはくれなかった。


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