モブ子は今日も青春中!
かたる先輩
「先輩…、行きたいところ、ある?」
私はかたる先輩と手を繋いだまま、先輩の顔を覗き込む。
「…そうだな。せっかくだし、ちょっと遠くまで行ってみる?」
先輩が微笑んでくれる。
それだけで、胸がキュンとして、頬が紅潮する。
「うん!」
私ははにかみながら応えた。
高校からしばらく歩いて、駅にたどり着く。同じ制服の子たちが何人かいたけれど、私は先輩の手をギュッと握って、前だけを見た。
電車の中では先輩がイヤホンを片方だけ貸してくれたから、一緒に並んで先輩の好きな曲を聴いた。
きっと私は今聴いているこの曲を、一生忘れないと思う。
電車から降りて、駅の外に出る。
平日にも関わらす、多くの高校生や大学生が集まる街は、今日もにぎやかだった。どこからかクリスマスソングも流れ、いつもに増して街全体が浮足立っているように感じる。
冷たい風が通り抜けた。
「かなめ、寒い?大丈夫?」
先輩が繋いでいない方の手で私の頬を触る。
「大丈夫だよ。」
その行為だけで、胸が苦しくてどうにかなりそうになる。触れられたところが熱を帯びる。
先輩が私の頬から手を離して、目を逸らしながら
「それなら良かった。」と言った。
先輩の耳は真っ赤だった。
2人で、たくさんのお店が並ぶ通りを歩く。はぐれないようにしっかりと手を繋いだまま。
一緒にこんな風に出かけるのは夏休み以来だなと考える。2人で出かけることがこんなに特別なものになるなんて、あのときは思いもよらなかったけれど。
ファーストフード店で、ハンバーガーとポテトを食べた。大きい口を開けて食べるのがなんだか恥ずかしかった。
色んなお店の雑貨を見て回った。変なメガネを試しにかけて笑わせてくれたり、一緒にかわいいヘアアクセを選んだり、楽しかった。
甘い香りに誘われて、ポップコーンを1つ買った。
駅の近くまで戻って、大きな公園でそれを食べた。ほろ苦いキャラメルの味がした。
「楽しかったね…。」
「うん…。」
あっという間に時間は過ぎ、夕暮れにカラスの鳴き声が響いた。
街の喧騒からさぼど離れていないはずなのに、ここはとても静かだった。
「…先輩に、プレゼントがあるの。」
私はきれいなリボンで包装された、直方体の箱を渡す。あの日の2人の姿が一瞬頭をよぎり、胸がチクッとした。
「…ありがとう。」
先輩が嬉しそうに微笑んで、受け取ってくれる。
「…かなめ?」
私の不安そうな表情に気づいたのか、先輩が私の顔を覗き込む。
「………。」
「………。」
先輩の目を見たら、胸が苦しくなる。
先輩に触れたら、離れられなくなる。
もう…気持ちが止まらない。
「…好き…。」
「………っ!」
先輩が私を抱き寄せて、私たちはそっとキスをした。