モブ子は今日も青春中!

兄 ⑦


 長い口づけだった。
 名残惜しそうに、どちらともなく距離をあける。

「かなめ…。」

 涙が零れた。
 
 楽しい時間は終わりだ。

 これ以上、一緒にいてはダメだと思った。
 だって、先輩は…ゲームのキャラクターじゃない。兄ちゃんだ…。


 兄ちゃんは私にとって、やっぱり兄ちゃんで。
 好きで、大好きで、でも兄ちゃんで。

「兄ちゃん…、ごめん。」


 兄ちゃんが私の手をギュッと握る。

「なんで謝るの…?」

 涙が、止まらない。

「今日、本当に楽しかった。でも、それは、『先輩』だったから…。私、どうしても『兄妹』って、考えちゃうから…。」

 自分が酷いことを言っているってわかる。兄ちゃんを振り回したくないのに、一緒にいたい。
 

「…かなめは、俺が好き?」

「好き…。だから、こんな中途半端はダメだって。ごめん、今日だけ思い出がほしいって。ちゃんとさよならを言うつもりだったのに…。」

 兄ちゃんの温もりに触れたら、離れたくなくて、苦しい。

 ずっとそばにいたい。

 もう、離れたくない。


「そういうことか…。」

 兄ちゃんが私を抱き寄せる。

「…わかる?かなめ。俺は、かなめがそんな風に悩んで泣いてくれて、今すっごく嬉しいの。」

 兄ちゃんの胸から顔を上げる。

「だって、そうだろう?今まで全然意識してもらえなかったのに、こんな最高なことってある?」

 兄ちゃんが微笑む。

「言ったじゃん。もう『兄ちゃん』じゃなくなるって。…これからゆっくり、俺たちの形を作っていこう?」

 …不安がないわけじゃなかった。
 でも、目の前にいてくれるこの人が好きだという気持ちだけは、何があっても揺るがないって本気で思えた。

「…うん。」

 私はその胸にそっと寄り添った。



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