イケメンの恋愛観察日記

私は営業部の部屋に入ると目を光らせた。

さあ、どこだ?私に愛の劇場を見せてくれるイケメンズ達は…居たーっ!

カッ…と目を見開くと嘉川を見詰めた。加瀨の隠された恋の相手、嘉川はどこかへ電話中だ。

では嘉川に秘めたる想いを抱く加瀨はどこだーっ?…あれ、こっちに向かって手を振っている?手招きされたので近づくと加瀨はニヤニヤしていた。

「よおっ、やっと来たな~相笠。お前ずっと経理の回収業務サボってただろ?」

「か、加瀨--っお前かぁ!部長にチクりやがってぇ。」

「何言ってやがんだ、サボりやがって…。はい、お願いします。」

そう言って加瀨は綺麗にコピー用紙に添付されて整理された領収書が入ったクリアケースを渡してきた。

「相笠、週末空いてるか?飲みに行く?」

加瀨のバカ!こんな人が居るところで私を誘うな。見てみなよ…ぎらついた愛を抱えている営業部の女子社員が私を睨んでるじゃないか~。

女子社員の皆様よ、心配しなくても加瀨の心は嘉川に向いてますよ。

でもコレあれだ。飲みながら私の大好きな悲恋コイバナを聞き取れるチャンスじゃないか?

「いいよ~加瀨の生まれたてほやほやの恋バナ聞かせて下さいな。」

加瀨は少し目を見開いた後

「そんなのはねぇよ…。」

と、瞳を陰らせた。

……キターーーっ!愁い系の恋するメンズだーーっああ、尊い。美しい故に悩ましさも倍増のような気がするね。

「お前さ~飲みに行く度に人の恋愛ばっかり聞いてくるけどお前どうなのよ?」

加瀨の問いかけに、スゥ…と心が無になる。

私はそういうのはいいんだよ。諦めているし…無理だと思う。

「私、加瀨の恋バナ聞きたいよ。私のはどうでもいいじゃん。」

「おおっ何々?恋バナ…俺のでいいなら聞くか?」

と、電話を終えた嘉川が会話に割り込んできた。

ぎゃあ?!すごく聞きたいけど…嘉川が混ざって恋バナしてきたら加瀨が辛いじゃないかっ!私は悲恋や片恋の切ない話は好きだけど、完全なる失恋や泥沼破局の話は聞きたくない我儘女なのである。

この事態を避けるように口実を考えていると、私のスマホが鳴った。

「ちょっと失礼。」

私は断りを入れて営業部の隅へ移動して、画面を見て固まった。

はあぁ…お母様だ。通話のアイコンをタップする。

「はい。」

『千夏、今日は電話に出てくれるのね。』

「すみません、ご用件は?」

電話の向こうで、お母様は一瞬息を飲んだが

『今、外なのね?用件だけ言うわね。今週の日曜日は空けておいて。あなたにご紹介したい人がいるの。貴明も貴司も一緒よ。』

ああ…ご紹介、これお見合いだな。おまけに兄達が2人共揃ってってガチのやつじゃん。

「私、今はそんな気分じゃ…。」

『気分なんて言っている場合なの?もう27歳でしょう?』

ぐっ…年齢を盾にごり押しをしてくる。流石…お母様。

『うちの会社の営業課の方なの。仕事も出来るし、将来は有望ね。』

へぇ…お母様が褒めるなんて優秀な人なんだね。

『兎に角日曜日に迎えに行くから、朝はちゃんと起きて待ってなさいね。』

「え?ちょっとあ…切れた。」

携帯の画面を見る。表示は『柘植社長』と出ている。何も間違いではない。お母様と呼んではいるが、世間的には『柘植蓉子(つげようこ)社長』だ。

柘植社長…お母様とは血の繋がりは無い。

うちの家庭はちょっと複雑だ。私が一歳になる頃に実の母が事故で亡くなった。そして二歳になる前に父と柘植蓉子が再婚したのだ。

その時から私は柘植の母から溺愛されて育てられた。義理の兄達も突然出来た妹を可愛がってくれた。だが柘植の親族達は違った。

お前は一族の人間ではない。お前には柘植の相続には一切関わらせない。赤の他人のお前は柘植の集まりには呼ばない。

物心つく頃には母達がいないところに呼び出されて罵倒され、金目当ての貧乏人がっ!とずっと言われ続けていた。

兄達も当然親族のいびりに気が付いていた。真っ向から対抗し、一族の中でも頭角を現すほどの優秀な子供に成長した彼らは私を一族の矢面に立たないように兄弟で庇ってくれた。

お母様もそうだった。社長の仕事を精力的にこなし、自社の業績を上げ…私達のことに口を出すな!と、一族を叱責し全力で私を守ってくれた。

ところがだ

私が14歳になった年に…父は会社の若い女子社員と浮気をし…突然離婚を申し出てきたのだ。

父の浮気を知った柘植の一族から私は罵声を浴びた。父はその彼女とどこかに逃げていて、表には出てこない。私は柘植の一族に頭を下げ続けた。

母も兄達も私と共に頭を下げてくれてそして父に激怒していたが、それと同時に私への扱いに困り始めていたのは目に見えて分かっていた。

柘植の一族で揉めに揉めたが、私は今後一切、柘植の家と縁を切る。

それが親戚達から私が突き付けられた、親族会議の決定事項だった。

私はその条件を飲んだ。母と兄達は全然納得していないようだ、もちろん今も納得していないと思う。

未だに兄達は私を溺愛しているようだし、母に至っては生前贈与と言って土地付きマンションを私にくれた。この数年で、何度か土地を贈与してくれた。今年からは断っている。

私は15歳にして土地持ち家持ちの成金になってしまったので、一人暮らしを始めたと同時に税理士さんと弁護士さんに資産管理をお願いしている。

一見するとどこにでもいる、しがないOL風な私だが陰に隠れて?結構な資産持ちだった。


< 3 / 25 >

この作品をシェア

pagetop