懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
無意識に少しずつ縮まる距離


一年と少し前――。

副社長である亮介の噂は、彼が経営戦略室長の時代から里帆もよく耳にしていた。

二世というものは、とかくその資質を疑問視されるもの。二世が会社を潰すなんていう話もよく聞く。
ところが亮介は、それらを跳ね返すほど能力に長け、彼が社長に就任すればマリオスターはさらなる飛躍を遂げるだろうと目されていた。

そのうえ類稀なる容姿の持ち主。彼が歩けば人は誰しも振り返り、その華麗な姿に羨望の眼差しを向ける。
女性なら一度はお近づきになりたいと願う存在だ。

亮介の秘書になったため里帆はそれを間近で感じる立場になり、嫉妬や妬みの対象になることも少なくない。
たった今も、トイレの個室にいた里帆は自分の誹謗中傷を聞かされる被害に遭ったばかりだ。


『あんなちんくしゃが副社長の秘書なんて、未だに納得いかないわ』
『ほんと。あの人だったら私のほうがよっぽど美人だし』


最初の頃には気にしていちいち落ち込んでいた容姿に関する悪口にも、この頃は慣れっこである。

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