たとえば、こんな人生も
「勝手に勘違いした男が暴走しただけ」

「あの人、また姉さんに…」

「うん。可能性はあるね
でも、大丈夫
ちゃんと手は打っておくし」


「せなさんが
危険な目に遭わないようにするから安心して」


言いながら
手に持っていた救急箱のふたをあけて
いつきさんは私の手当てを始めた

大丈夫ですと返しても
「いいから」と強い口調で一蹴された


「…」


……かなり執着されてる様子だった

あの人の目、表情
好意と憎悪と怒りの混ざったような…

いつきさんが前に言ってたの
こういうことだったんだ

いつきさんの口振りだと
やっぱり姉さんには何の非もないみたいなのに

一方的にそんな感情を向けられて

暴言を浴びせられて
暴力を振るわれそうになって


恐怖で震えていた
せな姉さんの姿を思い出すと
ぎゅうっと胸が苦しくなる


「……せな姉さんが無事で良かった…」


もし、あのまま連れていかれてたら
もし、あのタイミングで私が出ていかなかったら


いつきさんが来てくれなかったら

どうなっていたか分からない


ぽつりと安堵するように呟いた言葉に
私の手当てをしてくれていた
いつきさんの手がぴくりと反応して止まる
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