【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
「今まで、あなたを独りにして……本当にごめんなさい」

 体の芯から湧き出たような熱い涙が溢れ、頬を伝った。

「百合……君は」

 流れ落ちる涙はそのままに、百合は鬼嶋の横に置いた、スプレーマムの花束を手に取った。

「……綺麗だな。洋菊?」

「『あの時』、私は庭に咲き残った菊をあの庵に置いていったの」

 ハッとしたように、鬼嶋は百合の顔を見た。

「『ひととせにふたたび匂ふ……』あなたが教えてくれた歌」

 何百年も前に別れ別れになった『ゆり』の顔が、今ここにいる百合に完全に重なった。

「……帰ってくるつもりだった。帰って来たかった。ごめんなさい。こんなに待たせてしまって」

 細い肩を震わせて泣き崩れそうになる百合を、鬼嶋は全てを受け止めるように抱きしめた。

「詫びる必要なんてない。……君は俺の元に戻って来てくれた。これからはずっと一緒にいられる……そうだろ?」

 鬼嶋の言葉を聞いた瞬間、心の中に重く垂れこめていた感情が霧散したように百合は感じた。

 午後にかかろうかという時間の夏の日差しが窓越しにさんさんと差し込んでいるのが、やけに眩しく感じられる。

「ええ、これからはずっと一緒に……」

 今、何の迷いもなく、そう言えることが百合には心から嬉しかった。

「ずっと、あなたの傍にいます」

 広い背中に腕を回して抱きしめながら、百合は思った。

 自分の居場所はここだ。

 何があってももう二度とこの温もりを失いたくない……。

 帰るべき場所にようやく辿り着いた安心と鬼嶋への思いを胸に抱いて、百合はほっと溜息をもらした。
< 30 / 30 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:17

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

アラサーですが異世界で婚活はじめます

総文字数/160,064

ファンタジー184ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
一生、独りで働いて死ぬ覚悟だったのに ……今の私は、子爵令嬢!? 仕事一筋・恋愛経験値ゼロの アラサーキャリアウーマン美鈴(みれい) 出張中に起きたある事故の後、 美鈴が目覚めたのは 近代ヨーロッパに酷似した美しい都、 パリスイの子爵邸だった。 子爵家の夫妻に養女として迎えられ 貴族令嬢として優雅に生活…… しているだけでいいはずもなく 婚活のため大貴族が主催する舞踏会に 参加することになってしまう! 舞踏会のエスコート役は 長身に艶やかな黒髪 ヘーゼルグリーン瞳をもつ いつも余裕しゃくしゃくの自信家 美鈴への好意を隠そうともしない 子爵の甥っ子 リオネル 想像もしていなかった 貴族令嬢としての華やかな生活 ワイルドで飄々とした熱血漢 リオネルと どこか儚げでクールな貴公子 フェリクス 二人の青年貴族との出会い そして異世界での婚活のゆくえは……? 恋愛経験値0からはじめる異世界恋物語です。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop