リペイントオレンジ🍊
つまり、友達にもならなければ、もちろん恋人にもならないってことで……


『話はそれだけか?仕事中だから切るぞ』

「あっ、……はい。本当にありがとうございました」


私は、一体菅野さんに何を言ってしまったんだろう。電話の向こうでは、訓練中らしい消防士の方々の声が聞こえていた。


名刺に書かれた【消防司令補】の文字を指でなぞれば、いつだったか、菅野さんに言われた『消防士じゃねぇ、消防司令補だ』って言葉が頭を過ぎった。


別に消防士でいいんじゃないですか。


スマホの着信履歴に残った、未登録の番号をタップして新規登録ボタンを押す。

名前
菅野 尊

フリガナ
スガノ "ソン"



「……登録」


あー、こんな子供じみたことをしてしまうなんて、どうしちゃったんだろう。

保存された電話番号に口元が緩んでしまうのは、どうしてだろう。

菅野さんを思うと、胸の奥の方がキュッと締め付けられて……まるで。


「恋……」


口に出せば、やけにしっくりする。
だけど、認めたくない。


意地悪で、私のことをバカにしてばかり。
それに、私は菅野さんのタイプじゃない。


報われない恋に飛び込めるほど、若くない。
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