陰の王子様
「ここだと簡単で悪いけど、礼を言うよ。うちの侍女を命がけで助けてくれたんだね。」
「あっ、はい。」
私が返事すると、キース公爵は私の前で立ち止まって、私の手をそっと持ち上げた。
行先をじっと追いかけていると、公爵が跪いて口づけをした。
驚き固まる私を上目遣いで覗き見ると、いたずらが成功した子どものように笑った。
「この恩は私も忘れない。」
そう言われて素直に嬉しいと思った。
でもそれ以上に、使用人さんたちのことを大事にしているんだと強く思った。
こんな貴族もいるんだと。
長い間、騎士団に属していたにも関わらず、貴族情報は全くと言っていいほど知らなかった。
第一に貴族に関わる仕事をしたことがなかった。
それでも騎士団内で流れていた噂を何度か聞いて、貴族は気難しい人ばかりだと認識していた。
「さあ行こうか。ルシア様が盛大にもてなしてくれるって言ってたよ。」
口づけされた手は未だ掴まれたままで、そのまま進む公爵に私はされるがまま、手を引かれついて行った。