陰の王子様
「お父様っ!」
「俺は貴方のことなど、一度も好意的に思ったことはない。…もっとはっきり言わないと分からないか?」
ライラ様がイオ様の威圧に怯んでいる。
「俺には、昔から1人の女性しかいない。…言ったよな。侍女の格好をしてまで、レティシアに会いに行ったと。」
私の目から涙が静かに溢れ、そして隣の彼女の手を包んでいた私の手が、いつの間にか逆に包みこまれていた。
「それに…。」
そう言ってイオ様は手の中の千切れたネックレスを眺める。
「今日でこの後宮から出て行ってもらう。異論は聞かない。ローガン、キース公爵家までついて行け。」
「お待ちくださいっ!私は、ずっとイオ様のこと…!」
ローガンさんがイオ様に駆け寄ろうとするライラ様を素早く止め、イオ様はこちらに歩いて来る。
「レティシア」
周りにいたライラ様の使用人さんたちはどこかへ行ったが、私の手を包んでくれている彼女は、未だ強く私の手を包んでくれている。