陰の王子様








「レティシア…」


どのくらい抱き合っていただろうか。



イオ様が少しだけ離れ、至近距離で見つめ合う。


どちらかともなく引き寄せ合い、唇が重なった。





「…ジェハも、レイナ様も、良い様に言ってくれるけど…。表立って、レティシアを守る勇気がなかったのかもしれないな。…そしたら、あの夜、レティシアがあれほど傷つくことはなかったかもしれない。」




こつんと額を合わせて、力なく言ったイオ様

あの夜とは、…クロードとやり合ったあの日だろうか。
イオ様の馬、エディが私をカナヤに連れて行ってくれた。




「でも、イオ様は私をジョセフさんのところにエディで連れて行ってくれた。…傷が残らないように、ボニーさんを呼んでくれていた。……十分すぎますよ。…私、愛されてるなって、おこがましいながら、感じています。」



恥ずかしくて、合わせていた額を離して、顔を少し俯かせてしまう。

すると、腰をぐっと寄せられ、顎を掬われイオ様と目が合う。


その目はもう暗さを無くしていて、欲が垣間見えた。




「愛してることが伝わっているのなら、俺のこの10年は、俺がどれだけレティシアを思っているのか、そして、幼少期の事を覚えられていない俺がレティシアに認識されるための必要な時間だったな。」


「覚えていないのは、本当に申し訳ございません…。」


「ごめんごめん。少し意地悪しただけ。」



そう言うと、顎にあったイオ様の手が私の首元に変わり、さらに上を向かされ、再び唇を重ねる。





イオ様はいつも以上に優しく、丁寧に、意地悪で。


次の日の朝日が見え始めた頃に、私は眠りについた。






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