陰の王子様
来たことのないウィザリア王国の街
王都から近いところにあり、自然に囲まれている穏やかな場所
「大丈夫か?ゆっくりで良い。」
「ありがとうございます。」
馬車を降り、手を差し伸べてくれたイオ様
その手は歩き出してからは、ぎゅっと握られた。
小さな家がぽつんぽつんとあり、人の姿は見えない。
「イオ様…、」
「大丈夫。この時間は、作業してる時間だから。」
心配そうな顔をしていたのか、大丈夫と何度もイオ様は言って、慣れた様に歩いて行く。
「あ!イオ様!」
「え、どこだい。」
「えっ、誰かいるよ。」
「…っ、まさか!」
広い畑で作業していた人たちがイオ様に気づいた様で、次々にこちらを見て立ち上がる。
声は聞こえないが、こちらを見て立ちすくんでいるように見えて、何かあるのかと後ろを振り返って見る。
何もなくて、後ろにいたジェハさんに優しい顔で首を傾げられた。
「レティシア」
「はいっ。」