陰の王子様
歩きながら後ろをうかがっていた私
慌てて前を向けば、さっきまで立ちすくんでいた人たちが走ってこちらに向かっていた。
「えっ、え…。」
「レティシアお嬢ちゃん!!」
懐かしいその呼び方に、足が勝手に前に進んでいた。
イオ様と繋いでいた手は離れ、
「走るなよ。」
その言葉だけ受け取ると、走らず、ゆっくり。
でも、気持ちが先走ってしまう。
「お嬢ちゃん!」
「っ、レティシアお嬢ちゃん!」
懐かしいけど、確かに10年経ったんだと見覚えのある顔を思い出しながら感じる。
あっという間に囲まれた私は、1人1人の顔を見て、涙を流していた。
「綺麗なお嬢様になったねえ!」
「本当っ、あんなに走り回っていたお嬢ちゃんに見えないよ。」
「あはは!でも昔からレティシアお嬢ちゃんは可愛かったよ!」
「そうそう、うちの子なんて初めて会った時から好きだったもんな。」
「うちの子も、いつも遊んで、偉そうにしてたけど、家ではお嬢ちゃんのことばかり言ってたよ!」
「懐かしいねえ。また、会えるなんて。…トレス様たちは見てるかね?」