1日限定両想い
『何やねんそれ。原先生に何が分かんねん。』
まだ机の上に握り拳を置いたままの菊池先生が苛立ちを隠そうともせずに言う。
てっきり俺に対しての怒りだと思っていたから、ふっと緊張がほどけた。
「知らないのも仕方がないと思います。原先生には事情を話して理解してもらいました。」
昨日の放課後、原先生に須崎の家庭事情を少し話したところ今回は大目にみると言ってもらえた。
今後どこまで理解してもらえるかは分からないけれど、須崎本人に謝るとも言ってくれた。
「俺、何もできませんでした。須崎が遊び歩いてるとか問題起こすなとか言われてるのを見ても、ただ苛立っただけで何も…何も言ってやれませんでした。」
『でも須崎はお前に感謝しとったやろ。』
「そんなの何も…何にもなってませんよ。」
慰めにも、励ましにも、須崎にとって何の為にもならなかった。
「俺たち教師が生徒に手を差し伸べてもいい距離はどこまでなんでしょうか。」
いつも自分からは助けを求めない須崎は、どこまで追いかけても手が届かないくらい細くて暗い道を歩いているみたいだった。