1日限定両想い
『俺は、』
何かを言いかけた菊池先生の言葉が、ドアをノックする音で遮られた。
同僚ならばノックなどせずに入ってくる。
不思議に思いながらドアを開くと、そこに立っていたのは須崎だった。
『おはようございます。』
「どうした。早いな。」
生徒が登校してくるには早すぎる時間。
須崎はドアを開けた俺を見上げて、その後で奥にいる菊池先生にも気付いて小さく頭を下げた。
『これ、課題やってきました。』
「え?」
『原先生に渡しておいてください。』
「分かったけど…」
何もこんなに朝早く…。
声を聞いて同じように思ったのか、菊池先生が後ろから様子を窺っているのが分かる。
『失礼します。』
『須崎。』
立ち去ろうとした須崎を呼び止めたのは菊池先生だった。
俺たちのところまで来て須崎を見下ろす菊池先生の表情を確かめるのが怖かった。
昨日からそうだ。
菊池先生と須崎。
2人が醸し出す親密な空気の外に、俺1人が取り残されているようだった。