1日限定両想い
『すみません。何でもないです。』
そう言って俺の手からさっと薬を取るとそのまま握りしめた。
握り潰してしまいそうなほど強く閉じられた手が、空をさまよう。
「どこか悪いのか?」
『いえ。大丈夫です。』
「でも、」
『大丈夫ですから。』
小さくても全てを遮るような固い意思のある声だった。
それ以上踏み込むことができずに言葉を失う。
何も言えない代わりに、立ち去ろうとしない須崎の表情を注意深く見つめた。
ほんの少しでも助けを求めてくれたなら。
この距離を詰めて、その手を握ることができるのに。
『あの…』
「うん。」
『誰にも言わないでください。』
一歩近付きたかった。
そう思えば思うほど、距離は開いていく。
こんなに近くにいるのに、遠い。
「でもひとりで抱えるのは良くないだろ。どんな些細なことでもいい。つらいことがあったら話してほ」
『先生に何ができるんですか?』
話してほしい、そう言おうとしたけれど最後まで言えなかった。
今日1番はっきりとした声が、それを遮ったから。