イルカ、恋うた
水色の光に包まれて、目を細めた。


かつて、彼と見た水槽で、同じように小さなサメが、直線に泳いでる。


そうか、ここだったんだよな。


――思い出の場所


「ねぇ、竜介……ラッコ見たい……」


美月がそう言った時、俺は隣にはおらず、一つ先の蟹を見てた。


「もう、ラッコ!」


「酒飲むようになると分かるな。クラゲも見たくなるよ」


美月は腕を掴む。


「一緒に歩きたいの」


「大丈夫。ちゃんと、守るよ」


俺が警護を忘れてる、と、美月は心配してるんだと思ってた。


「違う」


「え?」


「言ったでしょ?普通の女の子みたいに……。デート、したいの……」


彼女は薄暗い中でも分かるくらい、真っ赤になってる。


俺は「ほら」と、腕を出す。


美月は笑顔で、腕を組んできた。


ぴったりとくっついてくるので、今度はこっちが赤くなりそうだった。


だけど、不意に彼女が足を止めた。


「……美月?」


「ねぇ、なんで、おめでとうって言ったの?」


どうやら、これが言いたいことらしい。


「婚約破棄を知らなかったから……」


彼女は、すっかり笑顔が消えていた。


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