イルカ、恋うた
《1》

父親の背中を洗いながら、きっとこれが最後なんだ、とスポンジに力を込めた。


「まだまだ弱いな。まぁ、昔よりは上手くなった。手も大きくなったな」


彼は目頭を押さえた。


石鹸が入ったのだと、言い張ったわりに、湯船に戻っても、指はそのままだった。


「父さん、僕は平気だよ。だって、この間会った時、おじさん達優しかったもん。
良くしてもらえるって、父さんも言ってたじゃん」


無言のまま、彼の手は頭を撫でた。


親子の入浴はこれが最後。


明日になれば、遠縁の夫婦に引き取られる。


養子は、父さんもギリギリまで悩んでた。


彼は工場を経営していた。


不況の煽りを受け、多額の借金だけが残り、心臓の弱かった母は自分の出産で、命を落とした。


それでも、父は妻を殺した息子を愛してくれた。


寂しかったけど、幸せでもあった。


だが、その十二年間の二人の生活も、終わりが近い。


借金の話を聞いた、その遠縁の夫婦が、養子の話を持ちかけた。


彼等には子どもができず、少しでも血のつながっている俺を欲しがった。


最後まで迷っていた父も、もし自分に何かあった時、借金が息子に行くのを恐れたのと、
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