イルカ、恋うた
高校に行かせる自信のなかった彼に、自分達は大学まで行かせられると、夫婦は言った。


そして、明日は夫婦が迎えにくる日。


「どこか、行こうな。映画はどうだ?それとも、遊園地か?どうする?」


「僕、水族館がいい。母さんが海好きだったんでしょ」


本当はどこにも行きたくなかった。


どうせなら、養父母の分からない場所へ、と言いたかった。


だけど、素性も知れない債権者と会う中で、父の決意は固くなっていた。


息子だから、どうにもならない現実を知っていた。


「水族館かぁ。いいな。偶然だな。母さんとの初デートの場所だよ」


父は力なく呟いた。



―翌日


施設最大の水槽は、天まで伸びていそうで、中は本当に海だった。


「父さん、見てよ!サメだ、サメ!なんだ、映画より小さいじゃん」


「あんな凶暴なの、置くわけないじゃないか。飼育員さんがいなくなっちゃうよ。
おお、あっち見ろ。カニだ、うまそうだ」


彼は比較的、小さな水槽を好んだ。


しまいにはクラゲを眺めてた。


俺は足を止めてしまった父を置いて進んだ。


数歩先に、イルカの水槽を見つけた。
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