イルカ、恋うた
イルカの頭部を押さえると、プニプニと柔らかく動く。


「へー。他の種類と違って、柔いんだぁ」


と、竜介。


「もう、おバカみたいな言い方……わ、始まる」


インストラクターが、イルカの口に空気を送り、合図する。


すると、三頭同時に、リング状の泡を吐き出した。


美月は無邪気に手を叩いて喜び、彼も幸せだった。


しかし――


水族館を出て、まもなく彼女は泣き出した。


「美月?」


竜介は抱き寄せるが、密かに心配してたことを、彼女は言った。


「行きたくないよ。もう、東京帰らない……」


本来なら、島根から東京に帰り、佐伯達と一旦会い、それからそのまま、イギリスに発つ予定だ。


「美月、約束したろ?頑張るって」


「こわ、怖い……」


「え?イギリスが?でも、向こうの家族が……」


「違う!」と彼女は首を振る。


「あの時、本当に怖かったよ。り、竜介、いな、いなくなっちゃう……って。え、永遠に…会えなくなるって、思ったの……!」


と、嗚咽をあげながら、美月は言う。


竜介は頭を撫でる。


「俺は死なない。いなくならない。絶対に約束する」

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