イルカ、恋うた
弁護士は弱者の味方、とはよく言われる。
個人事務所といっても、部下らしき人がいるのに、
目の前の中年男性は、自ら茶を差し出し、柔和に微笑み、「伊藤です」と名乗る。
俺はなぜか、父を思い出してた。
「あの、唐突に訊きますが、十三年前の警察官殺人事件を担当されてますよね?お話を伺いたいんですが」
「昨日はライターさん。今日は刑事さん。あなたは本庁の方ではないんですね?彼等も来ました。
きっと、この事件を重点的に捜査しているんでしょう。あなたは……?」
「僕は正直関係していませんし、管轄の刑事は口出し無用なんです。でも、自分なりに考えて、気になることがあるんで…」
一息吐くように、茶をすすった。
「それは?」と、伊藤さんは問う。
「ヤクザの部下が、親を売るとはとても考えられません。刑事の身を少し忘れて言います。彼は嘘を吐いていない気がします」
「潔白と証言を信じる、と。では、警察官殺害の調書が嘘だと?」
我慢できず、考えていた言葉を出した。