イルカ、恋うた
「えっと、上司の娘さん」


嘘ではないよね。


「なんだぁ、子守りか。よかった」


サヤのその言葉を聞いた途端、美月は手を離し、後方に走りだした。


すぐに捕まえようとしたが、「ちょっと待ってよ」と、サヤが腕を掴み、止める。


「離せよ。追わなきゃ……!」


「いいじゃない。このまま、私と来てよぉ」


彼女はますます、腕に絡みつく。


美月は人混みに消えてしまった。


「離せ。じゃなきゃ、公務執行妨害で逮捕することになる」


何の冗談よぉ、と笑うサヤに手帳を見せた。


「冗談で済むならな」


唖然とした彼女の手は離れ、俺は走りながら、携帯を取り出した。


「岩居さん!すみません!!彼女、見失いました!」


『何してんのよ!……ここにいるけど……』


へぇ?と情けない声を出しながら、足を止めた。


そのまま、真っ直ぐに来い、と指示され、言われた通りに行くと、従業員用入り口に繋がる階段があった。


そこに二人は座ってた。


俺を見つけると、岩居さんが寄ってきて、言った。


「本当に二人きりにするわけないでしょ?なんか、あったらクビじゃすまないもん」


ありがたいような、ちょっと腹立つような……。

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