イルカ、恋うた
「美月……もう、行こう」


肩を抱き、強制的に立たせようとした。


「や、最後だから」


「……したよ」


今度こそ、終わると思った。

美月はまた、うつむき、視線をそらす。


「わ……私も……する……」


「え?」


「私も、竜介と……したい……」


「ば、バカ!何言ってんだよ!」


震えてるし、耳まで真っ赤なくせに…


「やだッ。してくれなきゃ、動かない!」


「佐伯検事正に悪いと思わない?待ってるよ」


彼女は顔を上げた。


「……分かってる。パパのこと……。だけど、竜介と会えるの。警護してもらえる時だけなんだもん。そりゃ、それ以外で会えるなら、私だって……こんなわがまま……嫌だもん…」

美月は、「お願い…」と続ける。


「……分かった……」


俺もどうかしてる。


あっさり、折れるなんて……


「目、閉じて」


相変わらず、頬を染める彼女は、頷いた後、ゆっくり閉じる。


―あら、ヤバイ…。なんか、やたら緊張するんですが……


下手したら、刑事課に異動初日以来。


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