イルカ、恋うた
車から、岩居さんが降りる。


「……それじゃあ、病院に行けない…。俺はまた、元の場所に戻るから、話が終わったら、携帯に電話しろ」


背後から、彼女の嗚咽が続く。


俺は投げやりになった。


「病院に着く頃には、落ち着いてますよ」


「あのなぁ、もしあのままなら?佐伯検事正の逆鱗に触れるかもなぁ。そしたら、交番勤務に逆戻りかもねぇ」


「分かりましたよ」


憂鬱だった。


だけど、岩居さんは本当に一人で乗り込んで、戻っちゃうし……


異動させられるかは別にして、父親にあの姿はまずいと思った。


「美月。ほら、お父さんが心配するだろう。泣きやんで……」


彼女は再び、顔をあげ、同じ質問をする。


「好きだった?」


「……友達としては、付き合いやすかった。共通の知り合いとかもいて、気まずくなりたくなくて、告白を断らなかったんだ」


「友達?」


「うん。友達としては、嫌いじゃなかった」


これで、落ち着いてくれるかと思ってた。


現に、嗚咽は収まっているし、頬を湿らせている以上の涙は流れてない。


ホッとして、携帯を出そうとした。


しかし――


彼女はまた、質問した。


「キスしたの?」


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